【産業医が警告】「フルリモート」と「1日4件以上」の会議に潜む危険

体内時計を狂わせ、夜型化させる「フルリモート」と「1日4件以上」の会議

新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、広がっているリモートワーク。そのメリットを活かして、地方への転職なき移住が加速するなど、新しいライフスタイルも浸透しつつあります。

一方で、その副作用も明らかになってきました。
ワーク・ライフバランスとDUMSCOが実施した調査では、1日4件の会議を境に、高ストレス者が急増、38%に達することが明らかになりました。

また、東京医科大学の調査では、リモートワークの存在自体はストレスを軽減するものの、フルリモートワークでは生産性が下がることが明らかになっています。
いずれもテレワークは生産性向上に有効だが、「(会議過多やフルリモートなど)やりすぎ注意」という結果になったことについて、東京医科大学精神医学分野の志村哲祥(あきよし)先生に解説頂きました。

精神科・心療内科・睡眠医学・産業医 志村哲祥

志村 哲祥(しむら・あきよし)

精神科・心療内科・睡眠医学・産業医
東京医科⼤学精神医学分野兼任講師。株式会社こどもみらい R&D統括。睡眠およびメンタルヘルスと企業の⽣産性やストレス対策に関する研究のトップランナー。
産学連携企業において、「利益の出る健康経営」や睡眠改善の取り組みを⾏い、コールセンターにおいて離職率74.5%減を達成するなど、様々な成果をあげる。
また、そのノウハウをもとに、本人が自覚しないストレス「隠れストレス負債」を発見、改善するアプリ「ANBAI」も監修する。

体内時計を狂わすフルリモート

――東京医科大学の調査、ワーク・ライフバランスとDUMSCOが実施した調査、いずれの調査結果も、テレワークは生産性向上に有効だが「(会議過多やフルリモートなど)やりすぎ注意」という結果になりました。どのような原因が考えられますか?

変量ロジスティック回帰分析によって算出した各要因がプレゼンティズムの悪化リスクに与える影響
会議実施者の高ストレスの割合 1日平均3件と1日平均4件の比較グラフ

リモートワーク頻度の調査で分かったのは、リモートワークが一定頻度、特にフルリモートになると、 生活リズムが崩れやすく、また夜型化しやすいということです。
人間の体内時計には光が大きく影響していますが、リモートワークではつい家から出なくなってしまうことも多く、それにより日中に日光を浴びず、さらに夜はつい遅い時間までパソコンを開いてしまうことで、体内時計が狂い、睡眠に影響を及ぼします。
また、体内時計を整えるには、毎日同じ時間にご飯を食べることが望ましいのですが、リモートワークでも、不規則になりがちです。

ストレスと睡眠の密接な関係

――睡眠の話がでてきましたが、ワークライフバランスとDUMSCOが実施した調査では、一定の睡眠時間を確保でていると、1日4件を超える会議過多でも、高ストレス者になりづらいことが明らかになっています。睡眠と生産性・ストレスの関係について教えて頂けないでしょうか。

低ストレス者の62%が勤務間インターバルを実践(7時間以上の睡眠時間確保)できていたのに対し、隠れテレワ負債者で実践は、29%に留まる。

睡眠とストレスを語る上で欠かせないのが、交感神経と副交感神経です。
交感神経は人が活発に活動するための、車のアクセルに相当する役割で、副交感神経は安静時や睡眠時などに体を回復させる、車で言うブレーキに相当する役割です。
この2つのモードを、環境の変化に合わせて自律的に調整してくれるのが「自律神経」です。

自律神経の働き

そして「ここは安心だ」と思える環境や心身の状態、副交感神経優位の時でなければ、人はリラックスしてゆっくり眠ることができません。

そのため、ストレス過多の状況に陥ると、睡眠時間や熟睡の悪化など、様々な観点で睡眠に影響を及ぼすことが分かっています。
その中でも特に「睡眠時間」「睡眠の質」「昼間に感じる眠気」に関する問題を取り除かないと、将来的な不調のリスクが高まると分かってきました。

――どの程度の睡眠時間が適切なのでしょうか。

勤労世代ではおおむね6時間の睡眠時間をとるのが理想で、33歳以下では6時間を下回ると不調が生じやすくなることが明らかになっています。
34歳〜50歳以下の世代でも、若い世代よりは小さいものの、少なくない影響が見られます。
一方、どの世代でも5時間を切ると深刻な不調をきたします

――しかし子育て世代、とりわけ乳幼児を育児する方々は、夜中に何度も起きてしまうなど、連続で6~8時間の睡眠の確保は難しいです。ワークライフバランスとDUMSCOが実施した調査では、理想の睡眠時間と実際に確保できている睡眠時間に大きく乖離が生じていました。

確保したいと意識している睡眠時間と1日の平均的な睡眠時間のグラフ

睡眠時間はどの方でも最低5時間は確保してほしい、子育て世代であれば7時間程度は欲しいのですが、睡眠の量以外の観点で言うと、前述した「睡眠の質」「昼間に感じる眠気」なども重要で、改善の可能性があります。

「睡眠の質」をコントロールするための12か条

では、何から手をつければいいのでしょうか。すでに厚生労働省が発表している睡眠衛生に関する12か条を参考に、解説していきます。

  1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
  2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
  3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
  4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
  5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
  6. 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
  7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
  8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
  9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
  10. 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
  11. いつもと違う睡眠には、要注意。
  12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。

出典:厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf

ピックアップして説明する前に、前提として、睡眠の質をコントロールするためには「積極的に何かをする」よりも「マイナス要因を潰していく」対策のほうが選択肢としては多いですし、効果もあります。子育て世代の方は、何か特別な対策をしなければならないんじゃないかと思いがち、そして改善を諦めてしまいがちですが、いつもの習慣を少し変えていただくだけで十分に睡眠の質をコントロールしていけます。あまり気負わずに取り組んでいただけたらと思います。

週末の寝溜めを推奨しない理由

最初にぜひ取り組んでいただきたいのは、上記の7番「若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。」です。ぜひ平日と休日の生活リズムを一定に保ってください。
子育てはお休みできなくても仕事のない休日は夜更かししたり、心ゆくまで朝寝坊して寝たい気持ちも分かりますが、平日と休日の睡眠リズムが乖離しすぎると、「ソーシャルジェットラグ」、つまり時差ぼけのような不調が発生し。体に負担がかかるのです。

もし睡眠時間が普段5時間で休日は睡眠時間が確保できるという方は、いつも寝ている時間帯の中間地点を揃えるようにしましょう。例えば0時〜5時の睡眠時間の方が8時間にする場合、2時30分を起点にして、22時30分〜6時30分で睡眠時間をとるようなイメージです。

平日と休日の睡眠リズム NG例OK例

普段の睡眠時間の短さを気にして変な時間に寝るよりも、睡眠リズムを一定にしてあげたほうが睡眠の質が向上することが分かっています。

ランチタイムのスキップ、引きこもりによる昼夜逆転・・・ リモートワークに潜む睡眠阻害の要因

――冒頭で、フルリモートや会議過多では、生活リズムが不規則になり体内時計が狂い、睡眠の質に影響を与えやすい点を解説頂きました。対策があれば、要因別に教えて頂けないでしょうか。

要因1:食事のサイクル、中身

皆さんは昼食や夕食の時間をついつい遅らせてしまっていることはありませんか? 睡眠サイクルを整えるためには、昼間のライフサイクルも整えることが大切です。日中のライフサイクルを整えるのは食事と光です。会議が続く、在宅の昼間は子供のお世話で追われる…そんな方は少なくないはずです。よく「腹時計」とは言ったものですが、食事には体内時計を整えて、24時間リズムから作られる体調全般を整える役割もあるんです。
もしどうしても一食の食事を落ち着いて食べられないという方は、タンパク質と糖質を含んだ軽食を一口でもいいので召し上がってください。例えば飲むヨーグルトや納豆、バナナ1本でも大丈夫です。タンパク質と糖質が体内に入ってくることで、体内時計が整いやすいことが知られています。ただし、寝る1時間前のまとまった食事は避けましょう。

コーヒーなど、カフェインを含むエナジードリンクなどの飲料も要注意です。体内のカフェインが半減するにはおよそ5時間かかります。マグカップ1杯分のコーヒーを夕方に飲むと、眠る前であっても眠気覚まし飲料1本分のカフェインが体の中に残存してしまいます。

要因2:日光やブルーライトなどの光

私たちの体は光にとても敏感です。ブルーライトを就寝前に見るのは避けようとは言われていますが、大人だけではなくぜひお子さんと一緒に実行してみてください。ブルーライトの影響は大人よりも実はお子さんのほうが大きいのです。
ある実験では、室内光でもお子さんのメラトニン生成が阻害された研究結果も出ています。
参考:https://academic.oup.com/jcem/article/99/9/3298/2538381

仕組みはこうです。メラトニンは「夜が来ていること」を体が認識するためのホルモンで、朝や昼にきちんと明るく、そして夜に充分に暗くなると、分泌され、体はやがて眠くなって眠りにつくという睡眠サイクルができているのです。
しかし、在宅ワークでずっと同じ光量の下で生活をする、夜遅くまでブルーライトの光を浴びていると、メラトニンの分泌が阻害されます。メラトニンは、夕暮れ以降、暗くなってから分泌が始まり、夜中にピークを迎えますが、たった5分強い光を浴びるだけで著しく量が低下してしまうのです。

お子さんの夜泣きで起きた後、自分が眠れなくなってしまったというご相談もよく受けます。こういったときにも、眠れないからと言って蛍光灯をつけたり、パソコンを開いて仕事をしたりして強い光を浴びてしまうのではなく、「本は読めるが細かい作業は難しい」程度の間接照明の下で過ごされるとよいでしょう。
夜型の生活をされている方も同様です。夜型の方は特にサイクルが崩れやすいため、夜遅くに過度に光を浴びないように注意しましょう。

生活の規則性とメンタルヘルスには関連があるのですが、この際に気を付けるべき項目をまとめた「ソーシャルリズムメトリック」という概念があり、日本うつ病学会も発表しています。

ソーシャルリズムメトリック

この中に、起床、仕事の開始時間、食事の時間(夕食)という項目があるように、朝起きる時から睡眠改善は始まっているのです。睡眠は寝ている時間だけでなく、昼間の生活から改善できることをまずは知っておいてください。

ボトルネックは、高ストレス者の57%は自覚していない問題

――リモートワークのストレス問題でボトルネックになりそうなのが、自覚が難しい点です。
ワーク・ライフバランスとDUMSCOが実施した調査では、会議過多などの要因による高ストレス者の57%は、自身の高ストレスを自覚していないことが明らかになりました。
自覚をしていないと、睡眠の問題が生じても「でも、大丈夫」と認識され、改善策を講じないまま過ごす人たちも多いのではないかと懸念しています。

高ストレス者の本人自覚率

交感神経について先程解説しましたが、ストレスの自覚問題にも交感神経が関係してきます。
人はストレスを感じると、交感神経が優位になり、抗ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールなどが分泌されます。これにより、血圧や血糖値を上げて活動性を確保し、その状況にがんばって対抗しようとするので、ストレス環境下で一時的にパフォーマンスが上がってしまうことすら少なくなく、自身のストレスに盲目的になってしまう場合があるのです。

しかし、この一時的にパフォーマンスが向上することもある「抵抗期」は長くは続きません。慢性的なストレス状態が続くと、うつ状態に陥ることもあるので注意が必要です。

ストレス反応の3相期の変化

――ストレス自覚が難しい問題への対処法はありますか?

ストレスに先に気づくのは「頭」よりも「体」で、自覚はなくとも、高ストレスの予兆は体に現れ、その典型例の1つが睡眠の問題です。
睡眠に何らかの問題を感じるようになった際は、自覚のないストレスの予兆と認識し、ここで紹介した対策に取り組んでみてください。

ANBAIは、睡眠指導により、コールセンターの離職率74.5%を改善した志村哲祥先生監修のもと、会議過多やテレワークでの自覚できないストレス「隠れテレワ負債」を発見、改善プログラムを提供するセルフコンディショニングアプリです。

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